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034 裕司

last update Dernière mise à jour: 2025-05-01 19:00:59

 次の休日。

 海は裕司〈ゆうじ〉の墓に来ていた。

 大地は何も聞いてこなかった。ただ何となく、察しているように思えた。

 相変わらずだな、大地。

 そういうところに惹かれたんだろうな、そう思った。

 * * *

 その日は朝から、冷たい雨が降っていた。

 腰を下ろし、じっと墓を見つめる。

 雨が傘を叩く音が心地よかった。

「久しぶり、裕司……中々来れなくてごめんね。最近バタバタしてて……あなたのこと、忘れてた訳じゃないの。あなたの一部はここにある訳だし……って、言い訳だよね」

 そう言って胸のペンダントを握り締める。その中には墓の中同様、裕司の一部が納められている。

「私、どうしたらいいのかな。こんなこと、裕司に聞くのはおかしいって分かってる。でも……裕司の本当が知りたくて……」

 何度も何度も問いかける。しかし答えが返ってくることはなかった。

「まあ、そうだよね……」

 苦笑し、立ち上がる。

 そして墓をそっと撫で、

「また来るね」

 そう言ってその場を後にした。

 * * *

「……」

 帰り道。海はあの駅に立ち寄った。

 かつて人生を終わらせようとした場所。

 大地と出会った場所に。

 駅員にバレないよう、リュックから帽子を取り出し、深くかぶる。

 懐かしいな、このベンチ。そう思い、そっと撫でる。

 ここに座って、電車に飛び込む勇気を育てて。

 そしてようやく覚悟が決まり、いざ飛び込もうとしたら。

 大地が飛び込もうとしてた。

 思い返し、苦笑する。

 何度か列車が通過していった。ほんと、物凄いスピードだ。

 あれに飛び
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